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夏目漱石にインスピレーションを与えた「那古井の宿」。前田家別邸

熊本県北の宝もん バックナンバー

熊本県北が誇れる、人物や歴史的建造物、物語を紹介するコーナーです。

漱石の心を癒した桃源郷、天水町

夏目漱石の小説『草枕』の舞台となった天水町は、漱石が熊本に残した貴重な足跡の一つとなっています。当時、五高の教師だった漱石は、明治29年の6月に鏡子と結婚しますが、夏目漱石 その翌年は、妻が流産するなど落ち着かない1年で、暮れから正月にかけて小天温泉で過ごすことになりました。師走の寒い日に金峰山を越え、小天温泉へと出かけた漱石の心境は単純ではなかったようで、「旅にして申し訳なく暮るる年」という俳句が残されています。しかし、後にロンドンに留学した漱石が、一緒に「那古井の里」(天水町)へと旅した友人・山川信次郎宛ての手紙の中で懐かしく振り返っているように、穏やかな風景と前田家の人々に出合えた小天温泉での日々は、漱石にとって深く心に残るものだったようです。
前田家別邸

前田家別邸のドラマチックな演出効果

小天温泉で漱石が逗留したのは小天の郷士・前田案山子(かかし)の別邸。『草枕』は、そこでのエピソードを下敷きに書かれたもので、物語のヒロイン「那美さん」は、案山子の次女・卓(つな)がモデルになっているといわれます。「那古井の宿」として登場する前田家別邸は木造3階建てで、後ろの斜面にせり上がるように配置された離れが温泉客用の建物となっており、玄関右手奥に半地下の湯殿がありました。漱石が泊まったという部屋は六畳と四畳半の二間で、四畳半の部屋からは、庭を隔てて母屋の廊下が見下ろせます。『草枕』の印象的な描写は、前田家のこの独特な間取りから生まれたもので、主人公が「徘徊する振袖の女」を目にするなど、非日常的な物語の舞台として効果を発揮しています。

前田家別邸 明治時代の前田家別邸
前田卓 前田卓(つな)
前田案山子 前田案山子(かかし)
漱石と卓が遭遇した湯殿(修復後) 漱石と卓が遭遇した湯殿(修復後) 現在の前田家別邸(中庭から離れの客室を望む) 現在の前田家別邸(中庭から離れの客室を望む)

なかでも人々の心をとらえるのは、風呂で主人公と「那美さん」が遭遇する幻想的な場面です。小説『草枕』は、もちろんフィクションなのですが、風呂の場面は実際にあった出来事で、卓がその時のことを述懐した記述が残っています。浴室は明治初期としては最先端のセメント造りでモダンなものでしたが、当時、お湯は男湯からだけ出ており、それを女湯に引いていたので冬場の女湯はぬるかったのだそうです。夜更けに風呂に入りに来た卓が、「もう遅いので誰も入っていないだろう」と思って温かい男湯に入ろうとしたところ、漱石と山川信次郎が入っていて驚いて出たというのです。ということは、『草枕』の場面「七」の画工と那美の風呂場のシーンは、作者自身の実体験を脚色して描いたものだったわけです。『草枕』に確かなリアリティを与えたその貴重な浴室は修復されており、今も前田家別邸で見ることができます。

個性的で自由奔放な卓の魅力

鏡ヶ池 鏡ヶ池 ジョン・エバレット・ミレーの傑作「オフィーリアの死」 ジョン・エバレット・ミレーの傑作「オフィーリアの死」

『草枕』の中で“キじるし”などと周りから噂されているように、「那美さん」はかなりエキセントリックな雰囲気のある女性だったようです。場面「九」で登場する池は、前田家のもう一つの別邸にある鏡ヶ池をモチーフにして書かれたものといわれていますが、“絵を描くのにいいところか?”と尋ねた主人公に対し、「那美さん」は、“身を投げるのにいいところだ”と答えます。その言葉は、主人公にミレーの描いたオフィーリアを想い起こさせ、創作の糸口を与えました。このシーンには、個性的な卓のイメージが色濃く反映されているようで、実際、漱石にとっても卓の自由闊達さは刺激的で、強いインパクトを与えたのでしょう。また、孫文の辛亥革命を支えた宮崎滔天(とうてん)と大恋愛の末、21歳で結婚した妹・槌(つち)に請われて上京し「民報社」を支援するなど、卓は、社会活動家としても生きた先進的な女性でした。

「草枕の里」として地域興しに励む天水町。「草枕交流館」には『草枕』と作者・夏目漱石にまつわる貴重な品も展示され、舞台となった天水町と、漱石が実際に旅をした「草枕の道」のガイドなどを中心に案内を行っています。また、館内には、27人の日本画家が3巻28景にわたって小説『草枕』の世界を描いた『草枕絵巻』(大正15年作・奈良国立博物館収蔵)のレプリカも展示されています。同館では、平成7年の「草枕絵巻里帰り展」をはじめ、時期ごとに企画展を実施。2012年も、1月5日から3月20日まで「草枕美術展」が開催されます。

壁にかけられた「オフィーリアの死」の複製額 壁にかけられた「オフィーリアの死」の複製画
物語のシーンにそって描かれた「草枕絵巻」 物語のシーンにそって描かれた「草枕絵巻」
『草枕』と天水町の偉人たちの相関図も必見 『草枕』と天水町の偉人たちの相関図も必見
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草枕交流館 電話:0968-82-4511

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